- 短文・寸評・警句.ロシェフコーの箴言を真似しか?
- 我が輩は他の箴言よりも身近でないと感じた
- ロシェフコー箴言集(16Cフランス)
- 芥川龍之介「西方の人」「侏儒の言」(20C初日本)
- アンブローズ・ビアス「悪魔の辞典」(20C初合衆国,邦訳は岩波文庫の他に講談社から筒井康隆版有り)
- そういう意味で「明治の江戸」の雰囲気を感じることができる
- 色恋の警句が多けれど、その殆どは薩長高官・成金の遊郭に於ける野暮。当時の江戸っ子は微苦笑もて胸すく思いの警句も当世のしかも明烏の若旦那たる我が輩には、注釈てんこ盛りにてようやく文意がつかめる程度。
- 多くの警句の如く、若人(小説家・ジャーナリスト志望)揶揄せるもの多し。確かに、表現方法どころか、小説というジャンル、それ以前に小説を記述する言文一致から確立しなければならなかった明治文学第一世代からみれば、20世紀の第二世代第三世代の不甲斐なきこと如何ばかりか。
- 藩閥政治と政党政治(隈板内閣)に対する揶揄皮肉あり。当世民主主義の擁護者ともてはやされし偉人も同時代人から見れば利権に群がり野合を繰り返す俗物
- 落語に出てきそうな落とし話
- 現代に於いて 緑雨曰く と使えるのを以下に抜き出し弾倉に詰めておく
欺瞞 †
- 犠牲に供すとは面白き語なり、天神地祇は之を看行(みそなは)すのみ、何日(いつ)ともなしに人の取り下げて、多くは自ら啖らうなり。
- 恩は掛くるものにあらず、掛けらるるものなり。みだりに人の恩を知らざるを責むるは畢竟恩を知らざるものなり。
- 恩といふもの、いと長き力を有す、幾たび報うるも消ゆることなし。ここに於てか売る者有り、忘るる者有り、枷と同義たらしむ。
- 天真爛漫と傍若無人とは、大抵の場合に相似たるものなり。礼節は他の頭に厳しく、おのれの膝に寛き事なるべし。
政治家・ジャーナリズム †
- およそ人は、姿を画につくられざる程なるをよしとす。画につくらるる人の、壁に貼られざるは稀なり。即ち、英雄豪傑は壁に貼らるるものなり。
- 総理大臣たらん人と、我との異なる点を言はんか。肖像の新聞紙の附録となりて、徒に世に弄ばされるのみ。
- 拍手喝采は人を愚かにするの道なり。つとめて拍手せよ、つとめて喝采せよ、渠おのづから倒れん。
- 謂はばそやす(いいそやす)は義理づくなり、けなすは真なり。人のだづぬるに遇へば、一はまあ爾(そう)言って置くのさといひ、一はそれが当前ぢやないかといふ。
- 謹告す、諸君は此際、感動の拍手をなすに及ばず、唯宜しく何事にも、まぜつ返子の喝采をなすべし。
- 人間が標準相場は、功名を以て定む可きにあらず、仮なれば也。過失を以て定むる可し、真なれば也。
- 偽善なる語を聞くに毎に、偽りにも善を行う者あらば、猶可ならずやとわれは思へり。社会は常に、偽善に由りて保維せらるるにあらずやとわれは思へり。
- 正義のために立つといふは、身正義に代われるなり。貫き能わで斃れたるとき、正義は猶存在するものなりや否や、埋没せられざるものなりや否や
- 万歳の声は破壊の声なり。河原の石の積み上げられたるよりも、突き崩されたるに適す。
- cf.悪魔の辞典
- 【PATRIOT】愛国者(名詞)一部の利益が全体の利益よりまさるように思ってしまう人。政治家のいいカモ、征服者の手先。
- 【PATRIOTISM】愛国心(名詞)自らの名声を輝かせたいという野望を持つ者の火種となる燃えやすいゴミ。ジョンソン博士の有名な辞書では、「愛国心」は「ならず者の最後の拠りどころ」と提議されている。賢明ではあるがよろしくない辞書編集者に対して、払うべき敬意は払いつつも、それは「最初の」拠りどころであると具申させていただきたい。
- 憲政の美といふことを一言に約すれば、壮士の収入を増やすという事なり。
- 公平なるものは、義侠なる能はず。併び立たしむれば義侠無し、公平無し。
- 世は果たして腐敗せる乎。われは腐敗の如此き(かくのごとき)をおもわず、世というものの常に如此き(かくのごとき)をおもはん。
プライマリ・バランス †
- 儲けるを知って遣うを知らず、斥くべし。遣うを知って儲けるを知らず、是亦斥くべし。さらば何とかすべき。儲けて而遣へとは、儲けぬ人の言なり。金ならずして斯くの如く同一なる問と、同一なる答えとの繰り返さるるはなかるべし。世に其問、其答の明瞭に過ぐるものは、おほむね不可能な事なり。繰り返し来たれる今日にありては、殊に不可能の事なり。呉にして越、火にして水を兼ねしめんとするものなり。
- 使うべきに使わず、使うべからざるに使う、是れ銭金の本質にあらずや、疑義を挟むを要せず。
- 一国、一家、一人を分けてもいはず、金に就いて議論の生ずるは、乏しき時なり、少なき時なり、お恥ずかしくとも足らぬ時なり。工夫も然り、有る時にせず、無い時にす。
芸術家 †
- 今の小説と、ながらとは離る可からず。寝ながら読む、欠伸しながら読む、酒でも飲みながら読む。されどこの読むと言うことにより、代金の手前ということを差引きて、もし残余あらば、そは小説家が社会に与ふる偉大の功益なり。
- 貧人が唯一の味方は、詩人なりと。げに然らん、詩人も唯一の貧人なれば。
- 慷して慨せざる可けんや(憤慨するのを我慢できない)と、息巻荒き人の声の、蟇口の中より出づるものならぬは、今に於てわれの確信する所なりと雖も、曾て燕趙悲歌の士多くしてふ語をきける毎に、定めしお金がなかったらうとおもふを禁め得ざりき。我の矛盾にあらず、彼の進歩のみ。
- 画をかく人々、字をかく人々に告ぐ。お金を払って買って下さるは、まことに難有い(有難いの誤植?)お方なり。併しながら大抵は、わからぬ奴なり。
- 按ずるに筆は一本也、箸は二本也。衆寡敵せずと知るべし。
- 名誉ある小説家諸氏はいふ、だめな世間だからと。又いふ、ろくな報酬をくれぬのだからと。だめな世間に対(むか)つて、ろくな報酬を求む、矛盾ならずや、木に縁(よ)つての魚ならずや、八重山吹の実ならずや。
- 刀を鳥に加へて鳥の血を悲しめども、魚に加えて魚の血を悲まず。声ある者は幸福也、叫ぶ者は幸福也、泣得る者は幸福也、今の所謂詩人は幸福也。
- 人を罵りて鳥となすときは、おもに形貌に属し、獣となすときは、主に心術に属す。
- 烏賊は墨を有す。されど画家にあらず、書家にあらず。提灯屋にあらず、さては悲しき文人にもあらず。
婦女 †
- 死せる者は谷中に行くなり、生ける者は遊郭に行くなり。葬るに自他の別ありと雖も、其共同墓地たるに於いては一なり。
- 炊がざれば米は食うにたえへず、炊ぐは当然のみ。女を欺くに何の罪ぞ。
- 彼の妻を見よ、飼犬を見よ、大差ありや、餌を与ふることを忘れずば、吠ゆることなし
- 其昼は植物性也。花又は葉の色也。夜は動物性也、羽又は毛の色也。玩弄の点よりいうも、必要の点よりいふも。
- 後ろより見るべし、前より見るべからず。さなり美醜は一途に出ざるも、之を心に、之を形に
- 泣いて不条理を陳するあらざれば、何処へ出しても一人前の女といふを得ず。
- 涙ばかり貴きは無しとかや。されどアクビしたる時にも出ずるものなり
学生 †
- 一粒種たる息子が成績を、腹蔵無く告げくれよとあるに、年は尋中(尋常中学校)に参られしより、はや卒業をへたれど、今なおナショナルの四(英語の教科書、中学校で全五巻を学習)のむづかしと有りの儘をいへば、如何にも如何にもと聴居し親のやがて書斎を指し、四とやら五とやらそれはむづかしくとも、乞に任せてこれほどの書をあてがいたれば、どうにかなるべしというに立ち寄りて硝子戸の外より覗へば、ウエブスターの大なるを始め、英和といはず和英といはず、棚に金燦爛たるは悉く辞書なりき。
- 未学士の国家を富ましたるものあるを聞かず、門前の松屋(東大赤門前にあった文房具店)のみ稍富みしとなり。
- 途に、未だ学ばざる一年生の力み返れるは、何物をか得んとする望み有るによるなり。既に学べる三年生の萎れ返れるは、何物をも得るの望み無きによるなり。但し何物とは、多くは奉公口の事なり。
- 先生なる者の定義は、既に川柳に悉くされたれども、猶真面目なる用法の一つを漏らせり。畏まりながらに捧ぐる先生号は、おまへが死ねばおれの世だということを暗示するもの也、変則の魔除けなり。
- 鞄かたげて小学に通へるころ、望みは将官たるにありき。中学に入りては、佐官たりき。唐縮包をかかえて大学に行くに及びては、尉官たらざるを得ざりき。業畢へてはじめて世の戦場に立ちたるとき、顧眄(みかえ)れば一兵卒たるに過ぎず。
- 是れ普通の事也、尋常の事也、何人にとりても至当の事也。之を以て笑ふべしとするは、其一兵卒たるに止まるが故に非ず、一兵卒たるを暁(さと)らざるが故也。
- 学舎の成績は社会の成績にあらず、重きを試験点に置かずと雖も、学舎の人は社会の人にあらず、重きを試験点に置かざる可からず。学生百般の行為の帰着はこの背反せる如き二個の心得に在りとす。
- 夥多なる実理、実行を担いて、夥多なる空言、空虚に趨るものは、今の教育家也、教育家の急務なり。
- 人間を作らず、器械を作るというを以て、頗る病弊に中れりと為すが如きは、工業によりて立たんとする現下の大勢を知らざる者也、需要に対する供給なるを知らざる者也、教育も亦一の取引なるを知らざる者也。
- 世は何の為にか学者を要(もと)むる。別けて今の世は何の為にか学者を要(もと)むる。われらは毫も学者の必要を感ぜず。
奉公人 †
- どうせ世の中其様(そん)なものだ。この一語は、泣ける者を慰むべく、怒れる者をも慰むべし。かくして人口は年々増加するとも、減少することなし、めでたからずや。
- 同じ理由で現在は人口が減ってますな・・・ cf.「負け犬の遠吠え」酒井順子、講談社
- いや私(0x1B歳)も人のこと言えませんが・・・
- それが何(ど)うした。唯この一句に、大方の議論は尽き果てぬべきものなり。政治といわず文学といわず。
- 絶えず貢献なる語を口にする人あれども、おもふに腹のふくれたる後の事なるべし、少なくとも、一日三度の飯を食得たる後の事なるべし。片手業なるべし。小唄なるべし。
- 月給は人の値にあらず、されども月給は人の値なり。各人が遭遇する場合の多少より言はば。
- 枉(ま)げて論議の愚をいう勿れ、愚なるものにあらざれば、論議の題目たらず。
- 経験は面の皮也。刷新は壁の塗替也。
- 転んだと倒れたとは同義に非ず。
「弱者」(カギ括弧付き) †
- 優れるが故に勝つなり、劣れるが故に負けるなり。強者は弱者を救わざるを責むと雖も、強者は何の度、何の点、何の域にまで弱者を救わざる可からずか。いつまで草(蔦)のいつ迄も、唯限り無くといはば、強者は己のために勝ちて、人のために敗けざるを得ず。
- 力の強弱なり、理の是非にあらず。しかも代々、弱者の理に富めるが如き観あるは、一に攻守の勢ひを異にするに由るなり。弱者の強者に比べて、理をいふに都合良き地位によるなり。愚痴や、恨みや、泣き言やを繰り返すのに便宜あるに由るなり。要するに弱者の数多ければなり、口喧しければなり。
- 強きを挫き弱気を扶く、世に之を侠と称すれども、弱に与せんは容易(たやす)き事なり、人の心の自然なり。義理名分の正しき下に、強に与せんはいといと難し。悶ゆる胸の苦少なきを幸福といはば、弱者は強者よりもむしろ幸福なり。
- 謂われなき富者の憎まれ、貧者の憫まるることあり。厭らぬ(あきたらぬ)人の心の、身を富者の地位に置かず、貧舎の地位にのみ起きて考ふるに由る也。
- 英雄を罵る、快事たり。美人を罵る、亦快事たり。されども共に、銭無き時の事たり。
弱者(カギ括弧なし) †
- 剣を以てするも、筆を以てするも、強者はついに弱者を扶くることなし、長く扶くることなし。弱者を扶くるは弱者なり、どの道逃れぬ弱者なり、同病相憐れむに過ぎず。
- 貧は、強ち恥辱にあらざる可きも、さりとて到底栄誉にあらず。まづしき也、とぼしき也、憂ふるに人さまざまの軽重ありとも、孰か心の奥を問はれて、富に優るといふ者あらんや。貧を誇るは、富を誇るよりも更に陋し(いやし)。
- 富は手段を要す、此に於てか貧に安んずということあれども、実は安んずるにあらず、安んぜざるを得ざるなり、余儀なきなり。人は銅貨の大よりも、銀貨の小を取る者也、とらざる迄も、その貴きを知れる者也。貧に安んずる者ならぬは明らけし。
- 今日しばし貧に安んずとも、有りし昨日、有るべき明日を夢みんは常のものなり(当然だ)。悠然、澹然などいうも、つまりは負惜みの台詞なり。
- 爨婦(さん)も丁稚も打交じり臥せる低き屋根の下と、坊ちやまも嬢様も各お座敷を有せらるる高殿の上と、所謂醜聞のいずれに多きかを比較し看よ。是亦余裕の一例なるべし。
Culture
Last-modified: 2006-02-14 (火) 00:21:53 (6891d)
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